調査が追った人たち

対象は2021年度の博士課程修了者で、2023年に調査を実施しました。有効回答は3,790人、有効回答率は23.9%です。回答者の58.4%には、博士課程に入る前の社会人経験がありました。

回答率が4分の1弱であるため、結果をすべての博士修了者へそのまま当てはめることはできません。とくに就業状況によって回答しやすさが違う可能性があります。それでも、同じ集団を追う貴重な基礎資料です。

収入の中心は400万〜500万円

年間所得で最も多い階級は400万〜500万円でした。ただし、これは平均でも保証額でもありません。分野、年齢、職種、雇用形態、社会人経験で分布は変わります。

医歯薬・保健分野は医師などを含むため高い所得帯が多く、博士全体の印象を押し上げます。理工系で企業に就職した人、人文・社会科学で大学の任期付き職に就いた人などを同じ箱で比べると、実態を見誤ります。

アカデミアの過半は任期付き

大学や公的研究機関などアカデミアで働く人の雇用形態は、任期なし32.4%、テニュアトラック11.0%、任期付き56.6%でした。任期付きが過半を占めます。

テニュアトラックは、一定期間の審査を経て任期のない職へ移る道を含みますが、必ず移行できるわけではありません。契約期間、更新条件、評価基準、研究費、教育負担まで見なければ、安定性は判断できません。

一方、企業就職では正規雇用の割合が高い分野もあります。博士の進路は大学だけではなく、企業の研究開発、データ分析、知財、政策、コンサルティング、起業などへ広がっています。

博士課程に入る前から差がある

学費の全額免除を受けていない人は54.7%、全額免除は16.0%でした。生活費や研究費の財源では、本人・家族の負担が大きく、返済不要のフェローシップや奨学金を得た人は一部です。

インターンシップ経験は11.3%にとどまりました。研究を深める時間を守りながら、研究外の職務や組織に触れる機会をどうつくるかが課題です。博士課程の価値を就職テクニックに縮めるべきではありませんが、選択肢を知ることは研究への集中と矛盾しません。

大学の内側で変えるべきこと

博士学生を『将来の大学教員』だけとして扱うと、現実の進路とずれます。指導教員だけに依存せず、キャリア相談、企業・行政との接点、研究スキルの言語化、インターンシップ、修了者ネットワークを大学全体で支える必要があります。

企業側も、博士を年齢の高い新卒として見るのではなく、未知の問題を定義し、証拠を集め、失敗から方法を修正する人材として職務を設計する必要があります。

用語メモ

テニュアトラック

一定期間の任期付き雇用の後、審査を経て任期のない職へ移行することを想定した制度。条件や移行率は機関によって異なります。

編集部の確認ポイント

  • 確定していること:所得の最頻階級は400万〜500万円、アカデミアの任期付きは56.6%。
  • 注意すること:有効回答率は23.9%で、分野や経歴の違いが大きい。
  • 編集部の見立て:博士進学は肩書ではなく、研究テーマ、資金、指導環境、複数の進路を一体で考える必要がある。