まず押さえたい3点

  • 2027年度開始、最大4年、2年目終了時のステージゲートを想定する新規事業案で、要求・要望額は5億円です。
  • 研究力、ファンディング、研究環境、イノベーション基盤などを重点領域とし、研究成果を政策文書や制度の試行へつなぐ設計です。
  • 大学・研究者だけでなく、領域総括、政策リエゾン、NISTEP、文科省が継続的に関わります。研究の独立性と政策実装の近さをどう両立するかが核心です。

何が起きた・示されたのか

CATALYSTは「Co-designing Analytic Tools and Approaches for Leading Science, Technology and Innovation policy」の略称です。資料は、研究力を論文数やTop10%補正論文数だけで測ってよいか、ピアレビュー以外の資金配分をどう設計するか、博士人材の活躍や女性・若手研究者の環境を何で測るか、基礎研究からイノベーションに至る過程をどう把握するか、といった問いを例示しています。

研究は二段階を想定します。前半は研究開発やケーススタディを進め、論文、学会発表、データベースなどをつくる段階。後半は現場検証と政策適用を行い、政策文書への引用や政策形成プロセスでの試行を目指します。2年目終了時のステージゲートで継続を判断し、2031年度からの第8期科学技術・イノベーション基本計画への反映も視野に入れています。

運営面では、仮称「MEXT Catalyst Center」を置き、領域総括、政策リエゾン、採択研究者がチームを組む案です。政策リエゾンは行政側の課題や制度運用を研究者へ伝え、研究成果を文科省、NISTEP、関係機関へ橋渡しします。海外の研究資金配分機関などとの連携費も研究費へ組み込み、国際的なメタサイエンスの議論へ参加する構想です。

背景と社会的な意味

研究政策では、採択率、論文数、被引用数、外部資金など、測りやすい指標が長く使われてきました。しかし、指標は中立ではありません。短期間で成果が出やすいテーマを有利にしたり、申請書作成に時間を使わせたり、既存分野と既知の研究者へ資金を集中させたりする可能性があります。英国では分散型ピアレビューや部分的なランダム選考も試され、審査負担、バイアス、挑戦的提案の採択を検証しています。

日本でも、2011年度から2025年度まで「政策のための科学」SciREX事業が続きました。今回の資料は、その事後評価から、研究者と行政官で目標水準の共通認識が弱かったこと、人事異動で協働が途切れたこと、研究成果が政策実装へ結びつきにくかったことを課題として引き継ぎます。CATALYSTは、研究成果を後から行政が読むのではなく、課題設定から実装まで関係を保つ仕組みに変えようとしています。

社会にとっては、限られた研究費を誰へ、どの期間、どの基準で配るかの透明性が高まる可能性があります。大学にとっては、研究IR、教員評価、若手支援、博士教育、産学連携の指標が国の制度と接続します。研究者にとっては、従来指標で見落とされた学際研究や長期研究が評価される機会になる一方、新しい指標への適応競争が始まる可能性もあります。

反対面・限界・まだ分からないこと

第一に、5億円は成立した予算ではなく、2027年度の要求・要望額です。二つの支援型、採択件数、年額、最大4年という条件も会議資料段階で、今後変わり得ます。重点領域別ワーキンググループの構成や最終的な公募要領も未確定です。

第二に、政策へ近い研究ほど、行政が欲しい結論へ誘導されるリスクがあります。政策リエゾンとの継続対話は実装を速めますが、研究者が前提を批判したり、政策効果がないと結論づけたりできる独立性が必要です。課題設定、データ提供、成果公開、利益相反、途中評価のルールを外部から検証できなければ、エビデンスに基づく政策ではなく、政策を正当化するエビデンスになりかねません。

第三に、評価改革そのものの評価が難題です。新しい指標や審査方式を導入した後、採択者の属性、分野の多様性、申請・審査時間、研究の新規性、失敗からの学習、長期的な波及を比較する必要があります。短期の論文数だけでCATALYSTを評価すれば、事業の目的と手段が矛盾します。採択されなかった研究者や既存制度を比較対象にできるかも重要です。

編集部の確認ポイント

  • 2027年度予算で5億円がどこまで認められ、公募時の二つの支援型・採択件数・年額が維持されるか。
  • 重点領域と研究課題を誰が決め、大学・若手研究者・人文社会科学・当事者の意見をどう反映するか。
  • ステージゲートで、論文以外に政策試行、審査負担、多様性、失敗からの学習をどう測るか。
  • 政策リエゾンと研究者の関係で、研究の独立性、成果公開、利益相反、データ利用をどう保障するか。
  • 研究成果が第8期基本計画や科研費などへ実際に採用されたか、採用されなかった理由も記録するか。
  • 事業終了後、大学と行政の人材交流、データ基盤、国際ネットワークが残るか。

本記事は、2026年9月25日に文部科学省が公表した第1回有識者会議のページと配布資料を基に、決定済みの事実、概算要求段階の案、編集部の見立てを区別して記述しました。