まず押さえたい3点

  • 4区分で44件の応募があり、A区分3件、B区分8件、C区分4件、D区分3件の計18件が採択されました。
  • A・B・C区分は最長5年、D区分は最長3年。研究費と「富岳」の計算資源を組み合わせる区分と、計算資源を中心に支援する区分があります。
  • 国際的な利用、利用者コミュニティ、保守、事業化を評価対象に含め、ソフトウェアを「作って終わり」にしない設計が明示されました。

何が起きた・決まったのか

今回決まったのは、2026年度に始まるプログラムの採択課題です。A区分は「世界をリードする次世代計算科学アプリケーションの開発」で9件中3件、B区分は「世界に伍する次世代計算科学アプリケーションの開発」で22件中8件、C区分は「次世代計算科学アプリケーションへの転換」で6件中4件、D区分は「次世代計算科学を支えるライブラリ・ミドルウェアの研究開発」で7件中3件が採択されました。

対象は、生命科学、材料、気象・防災、都市、航空、量子計算との連携など幅広い分野です。理化学研究所、京都大学、筑波大学、東京科学大学、大阪大学、東北大学、千葉大学、東京大学などが代表機関に含まれます。A・B区分には研究費と大規模な「富岳」利用枠、C区分には優先的な計算資源、D区分には研究費と計算資源が用意されます。

ただし、採択は成果の保証ではありません。3年を超える課題は3年目に中間評価を受けます。事業全体でも、国際的な意義、利用状況、コミュニティ形成、維持管理、事業化の進捗を把握し、目標達成へ必要な助言や見直しを行うとされています。

背景と社会的な意味

現代の研究では、巨大な計算機だけあっても成果は生まれません。自然現象や材料、都市、人体を数式で表すアプリケーション、計算を高速化するライブラリ、複数の計算環境をつなぐミドルウェアが必要です。これらは論文の裏側にある「研究インフラ」ですが、開発者の異動や競争的資金の終了で保守が止まりやすく、利用手順や更新履歴が不足すれば他の研究者は再利用できません。

この制度は、研究ソフトウェアを個別研究室の成果物から、大学や研究機関が共同で支える基盤へ変えようとしています。利用者が増えれば、異なる分野が同じ計算部品を共有でき、研究の再現性や開発速度が高まります。企業にとっても、学術ソフトを自社の研究開発へつなぐ入口が増えます。一方で、公開性、知的財産、セキュリティ、計算資源の公平な配分を同時に設計する必要があります。

反対面・限界・まだ分からないこと

第一に、利用者数が多いソフトほど学術的に重要とは限りません。基礎研究や小さな専門分野では、利用者が少なくても代替不能な基盤があります。ダウンロード数だけで評価すると、長期的な科学価値より短期的な人気が優先される恐れがあります。

第二に、5年間の支援が終わった後の財源と雇用は確定していません。ソフトウェアは完成後も、計算機の更新、脆弱性対応、説明文書、問い合わせ、後継者育成が必要です。研究代表者だけでなく、リサーチ・ソフトウェア・エンジニアや支援職の職務とキャリアを大学が位置づけられるかが課題です。

第三に、国際普及と国内の自律性にはトレードオフがあります。世界標準を目指すには海外利用者との共同開発が欠かせませんが、重要技術やデータの管理も必要です。採択課題間の重複整理、他のスーパーコンピュータや将来計算機への移植性、オープンソースと事業化の境界は、今後の実施で確認する必要があります。

編集部の確認ポイント

  • 18課題ごとに、利用者、公開範囲、更新頻度、国際共同開発をどの指標で測るか。
  • 3年目の中間評価で、論文数だけでなく保守体制と利用者支援を評価できるか。
  • 支援終了後のサーバー、開発者雇用、問い合わせ窓口を誰が負担するか。
  • 課題間で共通部品、データ形式、実行環境を共有し、重複投資を減らせるか。
  • 若手研究者や技術職員が、ソフトウェア開発・保守を研究業績として評価されるか。
  • 「富岳」以外の計算環境や次世代計算機へ移行できる設計になっているか。

本記事は、2026年10月7日の文部科学省の採択結果と事業概要を照合し、採択済みの事実、今後の評価事項、編集部の見立てを区別して記述しました。